YURI社(ドイツ)の装置の利用事例として、微小重力下での免疫細胞、母斑細胞、筋細胞の挙動の調査や、重力が細胞や細胞内プロセスに与える影響の解明を目指しているCellbox-3ミッションをご紹介します。
地球上では重力の影響を受けている私たちの細胞や細胞内のプロセスは、宇宙の微小重力下ではどのように変化するのでしょうか?2022年から国際宇宙ステーションで行われたCellbox-3ミッションは、骨髄の3次元多細胞モデルや、微小重力下での骨格筋細胞と神経細胞の共培養について研究することで、この疑問の解決に取り組んでいます。本ミッションは、骨髄における血液形成や、筋肉に神経細胞を供給する分子レベルのプロセスの理解を深めることを目的としており、将来的には免疫疾患や筋力低下に対する治療法の開発に貢献することが期待されています。
Cellbox-3ミッションは2つの実験テーマから構成されており、Charité(ベルリン医科大学)が率いる"NEMUCO"、およびフランクフルトのヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学が率いる"SHAPE"から成ります。そして本ミッションでは、ドイツのYURI社が提供する、全自動式の小型培養器が使用されました。
Cellbox-3ミッションで使用されたサンプル容器は、スマートフォンほどの小型サイズの"マイクロラボ"です。このマイクロラボは、シグナス補給船運用18号機(NG-18)に乗って2022年11月6日に国際宇宙ステーション(ISS)へ打ち上げられ、SpaceX社のCRS-26ドラゴン宇宙船に乗って2023年1月11日に無事地球へ帰還しています。
通常、筋肉の機能は細胞接続を形成するシナプスである神経筋接合部に依存しています。そこでNEMUCOミッションでは、神経細胞と筋肉細胞の接点の構造および機能が、微小重力化でどのように変化するかを調べています。無重力下での細胞形成を研究するために、細胞培養ベースの実験が使用されたのは初のことでした。
この実験では、完全自動化されたマイクロラボを使用し、単離された神経細胞の3次元細胞培養モデルを、若い骨格筋細胞と共培養しました。そしてその培養物をISS船内の制御環境下に数日間置いた後、微小重力下で化学固定し、地球へ帰還させた後、Charitéで分析を行っています。NEMUCOミッションで得られた成果は、筋肉に神経細胞が供給される分子的なプロセスを理解するのに役立つとされているのに加え、リハビリテーションやトレーニングプログラムの最適化に向けた取り組みにも役立つと期待されています。
宇宙の微小重力環境は、我々の骨髄や免疫系にどのような影響を与えるのでしょうか?フランクフルトのヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学の研究チームは、SHAPE実験にて、ISSにて微小重力にさらされた後の細胞スフェロイドの形成プロセス、および生存率を定量化しようと試みています。"SHAPE"は"Spheroids aggregation and viability in space"の略、スフェロイドは細胞を3次元的に並べたもののことを指しています。
本研究で得られた成果は、ヒトにおける病原体に対する自然免疫の変化の理解を深めるとともに、骨髄形成における血液形成の変化(骨髄造血)の分子的原因をより詳細に解明するための基盤となると期待されています。
本記事は、YURI社が提供する "ScienceShell" の利用事例です。ScienceShellについてもっと知りたい方はこちら。
Source:(英語サイト)
Cellbox-3 launches biomedical experiments to the ISS
Medical experiments in space: Charité – Universitätsmedizin Berlin, "Cellbox-3" part
Mission experiments, "Cellbox-3 – What we can learn about the cells in our body in space" part